「青森からやって来ました大宮恵理子(おおみやえりこ)です♪ よろしくお願いします」
僕たちのクラスに転校生がやってきた。普通なら転校生なんて僕たち二人にはあまり関係のないこと......のはずだった。 大宮さんは僕たちのクラスの3−Bにやってきた。身長150cmと中学生としては、小さくて年より下に見られやすそうな感じの子だ。でも、スポーツが得意で勉強も良く出来るパーフェクトガールだ。

そんな彼女が僕に声をかけてきたのはある日の休み時間のこと。

「修也君って可愛いよね」
次の時間の用意をしていてボーっとしていたところに、彼女は声を掛けてきた。確か話すのは初めてだったと思うんだけれど、何で名前を知っているんだろう。
「大宮さん、どうしたの?」
いろいろ疑問は浮かぶけれど、とりあえず僕は授業の物を片付けた。
「別に、どうもしてないわよ。 ただ、あなたに話しかけただけ。転校してからずっと見てたんだ」
大宮さんはニコッと笑うと僕と目線を合わした。どういう意味だろう。でも、ずっと見てたなら名前ぐらい知ってて当然か。と考えて、そういうことじゃないと頭を振る。
「...何で?」
僕には大宮さんが何故声を掛けてきたのか、正直、よく分からない。
「ずっと見てたんだけどさ、修也君って可愛いよね、結構モテるんじゃない?」
「...そんなことないよ」
肝心の何で見てたというところには触れないまま、会話は進んでいく。
「そーかなぁ。 こんなに可愛いのに、このクラスの人の目はおかしいんだわ」
「そんなことないよ。大宮さんのほうが可愛いよ」
大体、『可愛い』っていうのは男の僕よりは女の子の方が似合う形容詞に決まってる。
「わあ、嬉しい!ありがと!修也君」
大宮さんは嬉しそうに笑った。うん、やっぱり可愛い。
「それで、何で僕のこと...「何してんだ、修也〜」
そのとき、透君がやってきた。
「透くん!」
「あれぇ、だあれ?」
大宮さんが透君を見て首をかしげる。
  「えっと...」
何て言えばいいんだろう。瞬間、迷った。 友達? 本当はそうじゃないのに。透君はそんなありふれた位置にいるんじゃないのに。
でも、でも...
「俺は灰谷透。 修也の...修也の大親友だよ!!」
ずきんと、分かっていたはずなのに、何だか胸が痛んだ。僕と透君の関係は他の人には秘密だから言えないのは分かってる。でも、大親友って言われたことにこんなに傷つくなんて。
「....修也?」
透君に声を掛けてられて、心臓が跳ね上がった。
「ん...あ、ごめん」
「いや...」
透君は気まずそうに顔を背けた。
「そっか、親友かぁ。 じゃあ、これから修也君のこと色々教えてね♪ よろしく!」
大宮さんはそう言うとタタッと走っていった。
「あ...修..」
「授業始まるよ」
僕は透君の話を遮ってそう言った。すっごく酷い事してるのは分かってた。でも、僕は胸が痛いのを我慢できるほど、強くなかったんだ。


その日の放課後

「修也ーーーーー!!!」
透君がユニフォーム姿のまま、僕の所に駆けて来た。昼間の態度も気になって、あわあわしているうちに透君が目の前に立つ。
「修也、ちょっと話がしたいんだ。 校庭、出ないか?」
透君の顔はとっても真面目だった。僕は透君の真剣な瞳から顔を背けることが出来なかった。
「分かった。 でも、そのまま帰るから用意させて」
そう言うと、透君はうなずいて僕の隣で待っていた。僕が荷物を背負うと、透君は先に歩き出した。


校庭に着くと透君は僕の方へ向き直った。
「一つ、修也に言っておきたいと思って」
「何...?」
「あ、あのさ...」
透君は少し照れくさそうに話し始めた。
「今日、大宮がお前に話しかけたじゃん」
「うん」
「あん時さ、俺、お前のこと親友って言ったじゃん」
「そうだね」
思い出すと、胸の辺りがもやもやする。
「あの事謝りたいと思って」
「..別にいいよ」
僕は気にしてくれていたことが嬉しかったけど、こんなことで透君を悩ませたくない。だから、本当に謝らなくてもいいと思った。だって、人に言えないのは仕方ないことなんだもん。
「それじゃ、俺の気がすまねぇんだよ。 お前は...修也は本当に大切な人だ。本当はあの時「恋人だ」って言うべきだったんだよな。マジで悪かった。ごめん」
透君は何度も頭を下げてきて、僕はどうしていいか分からなかった。
「もういいよ!! わかってるもん! そんな風に言えない事くらい。僕の方こそあんな態度とってごめん」
「...修也」
「...ん?」
「お前の事、本当に好きなんだからな。これ、証拠な」
「....え?」
透君は僕の腕を力強く引っ張った。そして、透君の唇が僕の唇にそっと触れた。わ、キスだ。僕の顔は赤くなっていく。
「わかったな」
「...う、うん」
もやもやがすっと薄くなっていく気がする。透君はすごい...。


「修也くーん!」
透君と別れた後、僕は大宮さんに声をかけられた。
「大宮さん」
「えへへ、偶然だね。よかったら一緒に帰らない?」
「別にいいよ」
「えへっ! ありがとう☆」
さりげなく僕の手を握ると、大宮さんはそのまま歩き出した。あの後、僕たちはずっと手を繋いだまま帰った。大宮さんは僕のことを色々聞いてきた。兄弟はいるのかとか好きな食べ物は何だとか本当に色々。昼のことといい、何でだろう。「どうして?」と聞いてみても、曖昧な答えしかかってこなかった。家につくまで大宮さんは、ほぼ笑いどうしだった。
「今日はありがとう」
大宮さんは最後にそう言って帰っていった。


次の日、登校しようとしたら、そこには大宮さんがいた。
「やっほー!」
大宮さんは満面の笑みだった。あまりにもその笑顔が無垢だったから、僕は何も言えなくなってしまった。
「一緒に登校しようと思ったんだけど...ダメかな?」
わざわざ朝に出向いてくれた喜びよりも、「どうして?」の方が僕の頭を占めている。熱でもあるのか、少し赤くなった大宮さんの顔を見ながら、僕は口を開いた。
「約束はないからいいよ」
「あれ、えっと、とおる君だっけ....は?」
「今日はサッカー部の朝練なんだ」
「じゃあ、いつもは一緒なの?」
「まぁ、大体そうだね」
僕が嬉しそうにそう笑うと
「とおる君の事、大好きなんだね」
と言われた。
「...えっっ!!」
急にそんなことを言われてとても驚いてしまった。もちろん、大宮さんの大好きの意味は友達としてだったんだろうけど、そこまで頭が回らなかった。
「修也君? 顔、真っ赤だよ」
大宮さんはくすくす笑った。
「じゃあ、私のライバルは透君ってわけだ」
そして、次にはっはっはと大きく笑った。 ライバル? 大宮さんはスポーツ得意だし、サッカーでも一緒にやるんだろうか


学校につくと、校庭に元気のいい声が響いている。「ファイトォォー」とかそういう感じの。僕が何気なくその方向を見ると、汗をかいて笑っている修也君がいた。その姿があまりにも眩しかったから、僕はつい、ときめいてしまった。透君って本当にかっこいい。

「修也君?」

大宮さんの声に、僕ははっとした。い、今のを見られていたんだろうか。ばくばくと心臓が騒ぎ出す。 そこへ
「修也ーー!!」
透君が駆けて来た。朝から会えるなんて、幸せだ。今日はいい事があるかもしれない。
「何だよ、朝練、見に来たのか?」
透君はとっても嬉しそうで、汗で濡れた手で僕の頭をクシャクシャした。
「ん...っと」
「あれ、大宮?」
透君が大宮さんに気付いた。
「やっほ! 君の親友、借りてたよ★」
大宮さんはぱたぱたと手を振った。その様子を見て、透君は黙ってしまった。
「またな、修也」
もう一度僕に向かって笑うと、透君は走っていってしまった。
「透君..」
僕は何だか悲しくなった。


「やっほ!! ちょっといいかな?」
昼休み、大宮さんがひょっこり現れた。
「何?」
「外行こ!」
大宮さんは僕の事をぐいぐいと引っ張っていった。そして、着いたのが校舎裏の大きな木の下だった。
「あの、あのね、私」
「...うん?」
「修也君のことがね」
「...うん」
「会ったときからずっと好きだったの」
「...え?」
何を言われたか、いまいち、よく分からなかった。好きって、その、友達とかじゃなくて好きってこと?
「好きなんだ。 大好きv」
大宮さんはそう言って、薄紅に頬を染めながらにっこり笑った。かぁと顔に血が集まっていく。え? ほ、本当に!?
「えへへ、なんか言いたくなっちゃって。多分、気づいていたと思うけど」
「ええええええええ」
何を言っていいか全然分からなかった。気づいてた...わけない!
「初めは完璧な一目惚れデシタ。修也君の顔、私のドストライクなんだ。でも、実際に話してみたら性格もすごく良いし、どっぷりはまっちゃいました」
「え!!」
「私、誰か好きになっちゃうと猪突猛進で、時間とか関係なくなっちゃって。まだ、会ってすぐだし、私の事好きじゃないかもしれないけどさ、少しでも好きって気持ちがあるなら付き合ってくれないかな?」
「ええと...」

「おい、今の話なんだよ」

「え?」
「透君...!?」
僕が返答に困っていると、脇から低い声が聞こえた。慌てて振り返ると、そこには透君がいた。
「今の話は何だっていってるんだ」
「.......やだな。見てたの。私が修也君に告白した、その現場です」
大宮さんは照れくさそうに笑った。その笑顔で和らぐはずの空気は以前張り詰めたままだ。
「冗談じゃないぜ! 修也は俺のモノだ」
「透君!!」
「え...」

その場が一瞬にして固まった。

「どういうこと?」
大宮さんはひどく驚いた顔をしていた。何かフォローできれば良かったんだけど、透君の突然の告白に僕までびっくりしてしまったのだ。
「え?」
「だから、修也は俺のモノなの。手、出さないでくれる?」
「.....えっと、君たちって...」
「確かに前は親友って言った。 でも、本当は俺たち付き合ってるんだ」
そう言って、透君は僕を引き寄せた。
「だから、あきらめてくれ。悪ぃな」
「っていうか、君たちって...ホモ?」
「まあ、そういうことになるな」
透君ははっきり言った。透君のあっけらかんとした態度に、僕は面食らった。 え? えぇ?
「だから...」

しばらく、おもーーーい沈黙が続く。

「いやっ!!」
大宮さんの大きな声が校庭に響いた。
「は?」
「嫌って言ったの。たとえ君たちが付き合っていても、私、あきらめないから。絶対、修也君を私のほうに向かせてみせるからね。 私と付き合う方が絶対楽しいって思わせるからね!」
大宮さんは、透君にそう言うと一目散に走っていった。
「何だ、アイツ。奪うって事か?」
「大丈夫。何があっても、僕は透君のことが大好きだから」
僕がそういうと、透君はにっこり笑って
「お前、可愛すぎ!それ反則!」
といって、僕の唇に口付けた。
「とおる...く.」
「修...」 校庭にはまだ人がいっぱい居たけど、僕たちは気にせず口付けあって舌を絡めあった。周りのことなど全然気にもならなかったんだ。しばらくそうしていた後、僕たちは唇を離した。
「修也、俺、本当にお前のこと好きだからな」
「...うん!!」