「なあ、俺たち付き合ってみねぇか」

幼馴染で友達の透君から、そんなことを言われたのは放課後の教室だった。
逆光で透君がどんな顔をしているのか見えない。僕は目の前がチカチカしてきた。今、なんて...?
「え?」
「だから、付き合ってみねぇか」
僕は何も言えなかった。 

だって、僕たちはオトコ同士なのだ。

「...やっぱり、駄目か」
透君は何だか寂しそうな顔をして、そのまま教室を出て行ってしまった。
僕はどうしていいか分からなかった。唯、心臓の鼓動だけが早く早く鳴っていた。

「ただいま」
家に帰っても、僕の心臓はドキドキしていた。
透君は僕といつも一緒にいてくれる大好きな友達だった。スポーツが得意だけど、勉強があまり出来なくて、いつも僕の宿題を写していた。ルックスが良くて女の子にもよくモテてた。だから、そんな人が僕の事を好きだなんて何だか信じられなかった。
「...透君....」
僕はそっと呟いた。透君のこと嫌いじゃない。ちょっとドキドキしているだけだもん。何だか、今日は勉強できそうにない。勉強机の上で僕はそんな風に思った。

次の日

僕は朝、学校に来て早々、透君と会った。透君は照れくさそうに僕の前から去って行った。
「....とおる...くん」
僕は小さく呟いた。声をかけていいのか、分からなかったから。

その日の放課後、僕は決心をして透君のもとへ向かった。
「如月(きさらぎ)...」
「修也(しゅうや)でいいよ、透君」
僕はにっこり笑った。  透君は何だか驚いているようだった。
「....どうしたんだよ、お前」
透君は机に腰掛けた。
「あ、あのね、僕、まだ返事してなかったから」
「あぁ、そのことか」
「うん」
体がガクガク震えた。なんで僕、こんなに緊張してるんだろう。
「で、断りにきたの?」
透君は自嘲気味に笑った。
「あ、あの、あの」
かぁっと顔が赤くなって、心臓がバクバクいってて、頭の中が真っ白だった。
「如月?」
「しゅ..しゅうっやでいいって!」
「で?」
「えっと...」
僕はもじもじ体を動かした。
「あの、あのね、僕でいいなら、喜んでお付き合いさせてください...」
恥ずかしかったから、ほとんど片言だったけど、どうやら透君には通じたみたいだ。
その証拠に透君は僕の唇に軽いキスをした。でも、そんなことに慣れていない僕は真っ赤になってその場に倒れこんでしまった。
「そーか!そーか!これからよろしくな!修也」
透君はそういって、僕に満面の笑顔で笑いかけた。