‘‘ ひどいよ.. 透君。これじゃ、強姦と何にも変わらないよ。透君は僕の気持ちなんていらないの? ’’
「うわっ!!」
また、あの夢を見た。透君の家に行って、沙織ちゃんと会って、透君と喧嘩したあの日の夢を....。もう何回目になるだろう。この夢を見るのは...。あの日からずっと話していない。正面から向き合えなくて、いつも逃げ回っている。怖いんだ。また、アンナコトをされてしまうんじゃないかって。でも、僕は透君に会いたい、すっごく。ひどい事されても、それでも好きなんだから。

「修也君?」
「....」
「修也君?」
目の前でパタパタと手が揺れる。
「あ...恵理ちゃん」
「どうしたの? 修也君。元気ないよ」
「ごめん。たいした事じゃないよ。心配させてごめんね」
僕は平静を装ったつもりだった。だけど、涙が出てしまった。
「修也...くん?」
「あ..ごめん」
僕は涙を止めようとしたけれど、止まらなくて、それどころかもっと酷くなった。ぼろぼろ涙がこぼれてきて、もう止めようが無かった。
「ふっ...うえっ..うう」
「修也君、向こう行こ★」
「んっ...」
恵理ちゃんは、僕を保健室まで引っ張っていった。


「−で、どうしたの?」
恵理ちゃんは、優しく僕の背中を撫でてくれた。
「あの..ね」
僕はこの前のことをゆっくり話した。思い出すと、胸がズキンとして、また涙が溢れた。
「そんな事が..透くんったら、私の修也君に」
「えへへ、ごめんね。もう、大丈夫...だから」
僕は、保健室のベットから起き上がろうとした.....そのとき軽く温かい唇がそっと触れた。
「恵理...ちゃ」
「覚えておいて。私も修也君のこと、好きなんだから」
恵理ちゃんは、綺麗に笑った。突然の行為だったけど、不安定で落ち着かなかった僕の心にはそれは安定剤のように思えた。
「悲しまないで。修也君の悲しむ顔、私、見ているの嫌なんだ」
恵理ちゃんはそう言って、また僕に口付けた。優しく軽いキス。
「...思い切って私にしてみない? なんてね。 ....先生には言っておくから、しばらく休んどきなよ」
恵理ちゃんはそっと出て行った。僕はベットに横になった。

カチャ

静かにドアが開いた。先生かな?と思って起き上がると、カーテン越しに透君が見えた。
「あ...」
僕はどうしていいかわからなくてベットにもぐりこんだ。
「修也?」
透君は僕のいるベットに近づいてくる。

ドクン

ドクン

鼓動が早くなってく。

「いるんだろ。知ってる。さっきからずっと見てた」

  ドクンッ

一際大きく胸がなった。さっきのを見ていた..?  じゃあ、恵理ちゃんとの事も?
「お前が元気ないの俺の所為だって知ってた。当たり前だよな、あんな事したんだもんな。でも、あれだってお前の事好きだからなんだぜ。 ...なんてな、いまさら言ってもしょうがねぇよな。まあ、そんでお前と大宮が保健室行ったの見て気になってな、俺も行ったんだよ。隠れてたのは悪いと思ってる。覗き見とかしてて悪かった。でもな、アレなんだよ。なんで、大宮とお前がキスすんだよ。俺とお前、付き合ってたんじゃねぇのかよ。この前ので、俺のこと嫌いになった、そういうことか?」
透君は悲しそうだった。今まで、全然泣き顔とか見たこと無かったけど、透君は今にも泣きそうな顔してた。
「お前の事好きで、すっごく好きで、だから体も欲しいと思った。これに間違いはねぇよ。でも、あんな乱暴なやり方はひどかったなって今でも思う。ごめん。それに、俺のこんな気持ちの所為で修也に嫌われたってんなら、俺、死ぬほど後悔する。俺の所為で... 俺が馬鹿だから...何より『愛してる』お前を傷付けたりするんだよな.. ははっ、未練がましいよな、俺」

ポタッ

透君の瞳から涙がこぼれた。

「わりぃ」

透君は一言そう言って、保健室を出て行こうとした。

「待って!」
僕は走って透君の側に駆け寄った。それから、予告も無しにその唇に深く深く口付けた。
「ちょっ..修也」
僕らはベットに倒れこんだ。
「僕、透君の事、嫌いになんかなってない!! 透君とこれでバイバイなんて嫌だ!!!!!!!」
堪えてたはずの涙がぽろぽろと溢れ出した。
「透君のこと怖かった...。でも嫌いにはならなかったよ!!」
「修也...」
透君は僕に優しく口付けた。そして、僕の首・鎖骨・色んな所にキスを落とした。
「あの行為が嫌だったわけじゃないんだな」
「嫌っていうか..嬉しかったんだけど....透君は僕のそんな気持ちに気付かないで、ただ、怒った腹いせにアンナコトしてたように感じて..僕の言葉なんか聞いてなくて、とっても怖かったんだ」
僕は嗚咽でひっくひっくしながら、何とか言い終えた。
「確かに、そういう部分があったのは否定しない。だけど、本当にお前を愛してるから体が欲しいって思ったことも真実なんだぜ。そのことも考えて、家に誘ったんだからよ。その日、親がいない事、俺、知ってたから」
僕はその言葉に思わず顔が赤くなった。そんなこと、少しも考えていなかったのだ。と考えていると、この状況が恥ずかしくなってきた。先生の居ない保健室のベットに二人きり。透君が僕の上に乗って、少し服の乱れ、肌の露になった部分にキスをしている。
「....っと..あの..」
「こんな美味しい状況、俺は見逃すつもりはないぜ。修也もこういうことは嫌じゃないんだろう」
「うん。それはそうだけど。でも」
心の準備というものがある。確かに嫌じゃないとは言ったが、全然恥ずかしくないわけでもない。つまり、心の準備がしたいのだ。
「とおるくん」
透君は僕の視線に気付いたが、優しく頬にキスをして、また行為を再開した。この前のがあるだけに、思い切り突き飛ばすことも出来ない。どうしたものかと僕が考えていると...

ガラッ

「修也君? 如月修也君?」
保健の先生が帰ってきた。
「ごめんなさいねぇ。少し用があって出かけていたのよ。具合が悪いらしいけど大丈夫なの?」
僕たちは慌てて服の乱れを直した。
「だっ、大丈夫です! もう、平気ですから」
僕は勢いよくベットから飛び起き、先生のところへと行った。
「あら、本当に平気なの?」
「はい。透君が看病してくれましたから」
僕がそう言うと、透君はおずおずとベットから出てきた。
「透君? ああ、サッカー部の灰谷透君ね。仲良しなのね」
保健の先生はにっこり微笑む。僕たちはその脇を小走りで駆けて行った。扉を出てすぐ、透君の「また今度な」って声が聞こえた。透君のその一言がすごく嬉しくて、僕は顔を綻ばせた。
「絶対だよ!」


後日
「結局、あのキスは何だったんだ?」
「えっ、そそれは」
「私が不意打ちしたの。私が修也君のこと獲る気満々なこと、忘れてるみたいだったから」
「大宮...」
「今度泣かせたら容赦しない。私も全力で行くからね?」
「...もうそんなことになったりしねぇよ」
「どうだか」
「え、恵理ちゃん。と、透くん」
「あー、慌ててる修也も可愛いー!」
「ずるーい。私が今抱きつこうと...!」
「ち、ちょっと」
またこんな風に話せるようになって幸せ。やっぱり透くん大好きだ。


後書きという名の呟き
透って心狭いな...。私の書いている登場人物は悉く人間としてダメな気がします(笑)