僕は如月修也(きさらぎ しゅうや)。中学3年生。
幼馴染で同じ学年の灰谷透(はいや とおる)君と付き合っている。透君とはあまり家も近くないけど、極力、一緒に登校するようにしてる。一緒に帰っているし、付き合うって言った時にキスもした。でも、僕には悩みがある。それは、付き合いだしてから遊べていないということだ。何故かというと、僕は吹奏楽部、透君はサッカー部に入っていて、両方とも忙しくて遊ぶ暇が無いから。そりゃあ、一緒に帰れるのは嬉しいんだ。でも、それだけじゃ物足りないとも思っている。今までこんなことなかったのに...  恋をするといろんなことが変わっちゃうんだ。
「透君。やっぱり今週も週末、空いてないよね?」
「ん? あぁ、悪ぃ、今週も部活あるんだよ」
やっぱり....か。
「いいんだ! 聞いてみただけだから」
「本当にごめん」
「いいんだって!!」
何だかその場に居たら、泣いてしまいそうで慌てて走っていった。
「修也...」
その後、色々考えすぎてしまった。もしかして透君と会えないのは透君が僕のこと嫌いになったのかもしれない..とか。そんなことないって思いたかったけど、完全に否定することが出来なかった。それは情けないことだけど、クラスの女の子が話していたことがとても気になってたからもある。

「リエちゃん、ユウキくんと別れちゃったのー!」
「なんでー? あんなに好き好き言ってたのにぃ」
「まだ二週間だよ?」
「んー。友達で一緒に遊んでる時は楽しかったんだけど、付き合ってみたらイマイチで。  なんか違うっていうか。ユウキもそう言ってたし」
「ユウキくん、かっこいいのにもったいなーい」
たまたま聞えて来た女の子たちの恋話。僕にとっては目からウロコだった。
付き合ってみたら違う...? そんなことってあるの?

そのあと一週間ぐらい気まずくて透君のこと避けてた。避けたかったわけじゃないけど、透君と正面から顔をあわせると、今まで考えていた嫌な事が頭をよぎったから。

しばらくそうしてたある日の放課後
「おい、修也!」
急に透君が僕に声をかけてきた。何だか怒った声で、僕はすっごくビックリした。その後すぐに僕の頭の中に例の嫌なことがよぎって、すぐに透君の前から消えてしまいたかった。もしかしたらもしかしたら別れようとか言われちゃうんだろうか。だって僕たちはオトコ同士で。やっぱり女の子がいいって、そう言うのかもしれない。付き合ってみたらやっぱり嫌になったとかかもしれない。
どんどん僕の顔から血の気が引いていく。やめようとしても嫌なことは止まらない。
じんわりと視界が滲んだのを感じて、僕は走り出した。
「待てよ! 修也!!」
逃げようとした僕の手を透君がしっかり握って引き寄せた。僕は透君と正面から抱き合う形になってしまった。そんな状況じゃないのに、放課後の誰も居ない教室で本当に助かったと思った。
「お前、いい加減にしろよ」
そう呟いた透君の声は震えていた。僕ははっとして顔を上げた。
「最近ずっと俺のこと避けてるだろ」
「そ、それは」
「ずっとだ。 俺を見ると避けるし、嫌いなら嫌いってはっきり言えよ」
透君の手が僕をきつく抱きしめた。
「....そんな嫌いだなんて。 その、透君こそ僕のこと嫌いなんじゃないの?
 だから、遊んでくれなかったんじゃないの?」
その後、透君は少し不思議そうな顔をしたけどすぐ笑顔になった。
「....はあ、よかったあ」
透君の手から力が抜けた。 でも、まだ僕のことをしっかり抱きしめていた。
「...?...」
「だから、遊べなかったのは忙しかったからだって言ってるだろ。 何でそうなんでよ」
「だって、僕...。 自信なかったの。透君が僕のことを好きなんてまだ信じられないくらい」
「まぁ、とりあえず良かった」
「ん?」
「修也に嫌われてなかった。 それだけでもホッとしたぜ」
「僕も透君に嫌われてなくてよかった」
僕は少し顔を赤らめながら、微笑した。
「誰がお前みたいな可愛いヤツ、手放すかよ」
ぽつりと透君が言う。その一言に僕の顔はいよいよ赤くなった。
「と、透君!!」
でも、透君はそんな僕の叫びも気に留めず、優しくもう一度抱きしめると
「大好き、修也」
と耳元で囁いた。
「僕も」

そうして僕と透君はキスをした。

「今日は何もないんだけど、遊べるか?」
「もちろん」
僕は笑顔で答えた。
「これの続きしような」
「え!」
「ジョーダンだよ」
くすっと透君は笑った。
「透君!!」