透君と初体験をしたのは、ちょうど一週間前のこと。あの日はあれから真夜中になるまで続けられて.....
お父さんが帰ってきた時、僕はすっかり腰が立たなくなっていた。あの日以来は二人とも忙しかったので、体を重ねたりはしてないけど、時々キスぐらいならしてる。いつも学校だけど...
とにかく僕らはすっごくラブラブなんだ。 
透君と初体験したことで僕らはもっと近づけたような気がする。恵理ちゃんはとっても悔しがっていたけど...
「こんな見え見えなところにキスマークなんかつけるなんて」
と僕の首筋を指差していった。 僕はすぐに真っ赤になってしまった。透君ったら。
「どうせ受けだったんだろうけど、私とやる時は攻めだからね。修也君」
恵理ちゃんはにっこり笑って言う。 僕はまっかっかになりながら、口をパクパク動かした。


「しゅーや!!」
透君が僕のところに来る。僕はほのかに顔を赤く染めながら、微笑んだ。
「今日も可愛い」
ちゅっと軽く音を立てて、透君が僕にキスをする。
「恥ずかしい」
僕は体をよじって、透君の腕から逃れた。そんな僕をもう一度腕の中に引き寄せると
「悪ぃ。しばらく部活忙しくて、かまってやれそうにないんだ。だから、今のうちに燃料補給させて」
透君が耳元でささやいた。
「うん」
僕も透君の腕をつかむと、優しく唇にキスをした。


本当にそれから修也君は忙しくなって、全く会えなくなった。朝も一緒にいくことができないし、放課後も一緒に帰れなかった。休日も部活で遊ぶことができないし、学校でも休み時間ぐらいにしか会えなかった。
.....やっぱりキスはしてたんだけど。


そんなある日の放課後のことだった。
「Excuse me」
綺麗な英語が聞こえた。僕が振り向くと、そこにはショートより少し長い金髪をさわさわとなびかせた美形の男の人がいた。
うっわぁぁぁぁぁ〜〜〜、綺麗な顔..
「Excuse me」
僕の顔をしげしげと見つめる。一応英語は得意だけど、外国人さんと話すのは初めてだった。
「えっと...」
僕がしどろもどろしているうちに、その人はまたしゃべりだした。
「T’m looking for the flowershop.Do you know the way?」
え?え?え? ....えっと...
「Yes.Go along this street and turn left at the second corner.Tt’s on your right.Okay?」
「Oh! Thank you」
外人さんは微笑む。やっぱり綺麗な顔。でも、通じたんだ、僕の英語。なんだか嬉しい。
「You are cute!!」
外人さんの顔が近づいてくる。 ...と、唇に冷たい感触。
え? 今、キスされた?
「Thank you.Good−bye」
外人さんは軽く手を振って、去っていった。み、道を聞かれたんだよね...?


「外国の人のキスって挨拶代わりなんだよね...」
「急に何言い出すんだお前」
「えっ!? ううん、なんでもないよ」
「どうしたっていうんだ? 外人にキスでもされたってのか?」
「!! そんな事ないよ!! 本当になんでもないよ」
僕はあわてて口を噤んだ。 何を言い出すんだこの口は。
「別に何も無いならいいんだけどよ」
透君はそれきり黙った。せっかくの休み時間なのに、僕が変なことを言ったから...
「ごめん。せっかくの二人きりなのに、変な事言って...」
「いいって。本当にそんな外人がいたんなら間違いなくぶっとばしてたところだけどな」
透君は僕に微笑む。僕は苦笑いをした。さすがにこの状況で「いました」なんて言えない。でも、思い出してもきれいな顔の外人さんだった。セミロングというのか、それより少し短いかの金髪。染めたなんて言えないほど見事な金髪だった。それにアイスブルーの瞳も金髪にとても映えていた。例えるなら...宝石の様...かな? 声も綺麗だったし。合唱とかやったらエースになっちゃったりして...
「修也?」
「あ...っと、ごめん!」
「修也の唇は俺のもんだぞ。他の誰のものでもない。俺のだからな?」
「もちろん」
透君と僕はそっと唇を合わせた。


「?????」
「Hello!」
透君が部活があって一緒に帰れないというから先に帰った僕は、家でびっくりする出来事にあった。放課後に会ったあの外国人さんがうちの中にいたのだ。
「Hello!! Well...my name is Chris.What is your name?」
「ええっと.... My name is shuya.」
「shuya!!」
「Yes」
僕が微笑むと、奥からお父さんが出てきた。
「クリス、何話しているんだ?」
「自己紹介ですよ、如月さん」
僕はその瞬間、とっても驚いた。日本語が喋れるんだ!!!! しかもなまりが全然無い...。じゃあ、何で今まで英語で?
「ごめんね、シューヤ。君は英語が喋れるのかなと思って..。こういう風に会う前に会っておきたかったっていうのもあるんだけど」
試されてたってこと?
「とっても綺麗な発音だったよ。 ...でも、試すようなことをして君は怒ってる?」
クリスさんが僕の顔を覗き込む。
「いえ、本物の外国人さんにそう言われて、怒るより嬉しいです」
僕が笑うと
「やっぱり君は可愛い。You are cute!!」
クリスさんも綺麗な顔で笑った。僕は顔を赤くした。また可愛いって言われちゃった...
「おっと、クリスの紹介がまだだったな。クリスは私の仕事相手の息子さんなんだ。今回は私の仕事を手伝ってもらうという形で家に泊まることになった。いいよな?」
お父さんがそう言った。クリスさんが僕にウィンクした。
「かまわないよ。お父さん」
「じゃあ、決まりだな」
「ありがとう、シューヤ。よろしくね」
クリスさんの笑顔はやっぱり綺麗だ。


「ねぇ、シューヤ。僕はどこで寝ればいいのかな?」
お風呂上りにフルーツ牛乳と思って、冷蔵庫を探しているとクリスさんが話しかけてきた。
「寝るところ、決まってないんですか?」
「そうなんだ。どこがいいかな?」
「ううん....お父さん、クリスさんってどこで寝ればいいかな?」
お目当てのフルーツ牛乳を手に取りながら、お父さんに聞いてみる。
「修也の部屋でいいんじゃないか?」
「えっ!」
「他の部屋は散らかっているし...。今日だけでも修也の部屋に泊めて上げなさい」
「でも、僕の部屋、ベッドがひとつしかないよ...」
「一緒に寝れば良いだろう?」
「...そう...だね」
「嫌なのか?」
「ううん! そんなことないよ」
僕はぐっとフルーツ牛乳を飲み干した。急に飲みすぎてむせそうだ。透君にキスされた外国人さんと一緒に寝ることになったなんて言ったら、怒るんだろうな..。
「シューヤ、嫌ならいいんだよ。僕はソファでもどこでも寝られるから」
「お客さんに悪いですよ。今日は一緒に寝ましょうね」
僕はケホケホ、せきをしながら笑った。
「でも、シューヤ。彼氏とかいないのかい?」
「えっ!?」
「おっと...彼女だったかな?」
「......」
僕は思わずお父さんを見た。テレビに集中しているらしくてこちらの話には気づいていないようだ。僕は長く息を吐いた。いつかは言わなきゃいけないことだと分かってても、今はまだ無理だ。
...それにしても、彼氏って...。何で...?
「僕はどっちでもいい派なんだ。シューヤは?」
「...僕は...」
「あ、初対面の人にこんなこと聞くべきじゃなかったね。ごめん」
「いえ、僕も一応、どちらでもいい派だと思います。でも、どちらかというと男の子の方が好きかもしれません」
自然と、そう口にしていた。クリスさんが正直に言ってくれたから僕も気にしなかったのかもしれない。
「そう。それはやっぱり、彼氏がいるから?」
「えっ!!」
きっと、僕の顔は一気に真っ赤になったんだと思う。なんでわかるんだろう。
「林檎みたいだ。やっぱり、そうなんだね」
「え?」
「普通、同性と一緒に寝るのをためらったりしないよ」
確かにそうかもしれない。僕はそう思って、また顔を赤くした。
「まして、君は男の目から見ても可愛いんだから、他の男の子がほっておかないだろうしね。この写真の人? 彼氏って?」
クリスさんはそういいながら、僕に中学の入学式の時の写真を見せてきた。そこには、サクラの木の下をバッグにして笑っている僕と透君がいた。
「そうだよね? 彼が君を見ている目は、友達のそれとは違う」
写真を見ながら、微笑を浮かべ、クリスさんは言った。写真の中の透君は...いや、こんなときから透君は僕のことがすきだったってことなんだろうか。でも、なんにしても透君が彼氏であることには変わりない。
「.......はい」
僕はこっくと頷いた。
「残念....」
クリスさんがぼそりと呟いた。僕がふいに顔を上げると
「もし、決まった相手がいないなら、僕が恋人候補になろうと思ってた」
クリスさんは笑顔で僕にそう言った。
「でも、相手がいるなら仕方ないね。あきらめるよ」
僕はクリスさんを見ているようで、頭はぐるんぐるんと回っていた。
「人が折角あきらめようとしているのだから、あんまり可愛い顔をしないでくれないか。決心が鈍りそうだよ」
クリスさんは笑いながらそう付け加えた。僕は顔を真っ赤にしながら、フルーツ牛乳を笛代わりにしてボーボーと吹いた。こんなことが知れたら、いよいよ透君に怒られるなぁと思った。


「さて、寝ようか」
「はっ、はい」
僕は素っ頓狂な声を上げながら、ベッドへと向かった。
「そんなに緊張しなくてもいいよ。多分、今夜だけだから」
クリスさんが柔らかに微笑んだ。やっぱりこの人の笑顔は綺麗だ。思わず、見とれてしまう。
「ふふ。シューヤって何でも顔に出るんだね。本当に可愛い。彼氏もそういうところが好きなのかもしれないね」
クリスさんが微笑を顔に浮かべたまま、僕に言った。
「......」
僕は何も答えられず、ただ顔を赤くしたまま、黙った。
「二人寝るには狭い...かな?」
そんな僕の様子を見て、くすりと笑った後、クリスさんは言った。
「そうですね。基本的にうちにお客さんが来ることは無いですから」
僕も笑いながら答えた。
「彼氏は?」
すかさずクリスさんが答えた。僕はそれでこの前の初体験のことを思い出した。一気に顔が真っ赤になった...と思う。あの時は行為に夢中でベッドが狭いとかそういうことは意識していなかったと思う。そういえば、疲れて寝たときに落ちそうになったような...。
「....ふぅ」
悶々としている中でクリスさんのため息が聞こえたような気がする。

その瞬間、僕の視野が回転した。

目の前が天井で、クリスさんの顔が近い。
「えぇっ!?」
「.....だからさっき言ったじゃないか。あきらめようとする決心が鈍るから、可愛い顔をしないでくれって。生憎、僕は我慢強いほうではないんだ。それに『据え膳食わぬは男の恥』って言葉にも賛同する」
「????」
「怖いのは自分の魅力に気づいてない人だよ。平気でそれをひけらかす」
クリスさんが疲れたような笑いを浮かべていた。でも、その瞳には熱がこもっていて、僕はぞくりと体を震わせた。クリスさんの金髪が僕の顔をくすぐり、吐息が頬にあたる。僕はおびえた瞳でクリスさんを見上げた。
「ごめんね」
少し声色が優しくなった。僕はほっとした。だけど
「.......!!」
次の瞬間にはクリスさんの唇が僕の唇に当たっていた。その瞳の熱さと同じくらい唇も熱を持っている。初めてのキスはあんなに冷たかったのに。それだけクリスさんの気持ちが...?
「んっ...!!」
僕はクリスさんを引き剥がそうとできる限り暴れてみた。クリスさんは僕の両手を押さえつけた。力が強いので腕に痛みが走る。
「んぅ...」
痛みで力が抜けたときに、クリスさんの舌が入り込んできた。さすが外国人というべきか、上手い。透君もキスは上手だけど、クリスさんはそれ以上だった。強張っている僕の舌をやんわりと舐めあげると、歯列を微妙な強さでなぞる。
「んふっ...んくぅ」
心は抵抗していても体は正直なもの。クリスさんのキスに体の力が抜けていった。緩んできた僕の舌を上手く掬い上げ、吸う。
「んっ!!」
快感と悲しさで涙が出てきた。
「あっ...」
クリスさんが口を離して、そのまま首筋を強く吸う。もちろんそこには赤い華が咲いた。
「っはあ...はあ」
僕は息を荒げながら、涙目でクリスさんを見上げた。
「ごめん」
クリスさんがもう一度謝る。今度は笑いを含んだ声だった。
「冗談」
ぼそっとクリスさんが言う。その頃には僕の手は解放されていた。
「え?」
「ちょっと妬けてね。あまりにも仲良さそうだから」
クリスさんは僕の上からどいた。
「結構上手いと思うんだけど、僕のキス」
クリスさんが唇を押さえながら、僕にウィンクした。
「嫌いだった? こういう冗談」
じょうだん...? 僕は困惑のまなざしをクリスさんに投げかける。クリスさんの顔が急に翳った。
「ごめん。驚かせた? そうだよね、彼氏がいるんだよね。それなのに...」
「え?あの...」
僕の頭は混乱したままだった。つまり、今までの行動は僕をからかっていただけで。からかって...あんな濃厚なキスを。また、僕の顔は赤くなった...と思う。
「ごめん。明日、修さんに言ってビジネスホテルに泊まると伝えるよ。」
クリスさんが至極真面目な顔で僕を見た。
「え?え?」
「大丈夫。それくらいのお金はあるんだ。なくても父さんからもらえばいいだけだから」
「ちょっ...」
「ごめん」
クリスさんがため息をつく。
「ちょっとまって!!」
僕は大声で叫んでいた。クリスさんが驚いて僕の顔を見ている。
「えと、もうしないというならいいです。いきなりでびっくりしましたし、冗談にしては悪質すぎると思いますが...でも、そんなビジネスホテルとかいいです」
クリスさんの顔が笑顔になった。
「ありがとう、シューヤ!!」
クリスさんが僕に抱きつく。
「僕はどうにも悪質な冗談で人を困らせることがあるんだ。君にはそうしまいと思っていたんだけど、結局やってしまったね」
クリスさんは苦笑いした。
「いえいえ。面白い人なんだとそう思っておきます。でも、もし透君にあってもこのこと言わないでくださいね」
「....彼氏のこと?」
「! あ、はい」
「Okay」
クリスさんは元の笑顔で笑った。
「そろそろ寝ましょうか。眠くなってきました」
「そうだね」
「んっしょ」
僕が布団をかぶると、クリスさんは僕を抱え込むように布団に入った。
「クッ、クリスさん!?」
「こうしていれば二人とも落ちないよ。大丈夫、さっきみたいな冗談はもうしないから」
「は、はぁ」
でも、クリスさんは手の幅を狭めていって、結果的に僕を抱きしめるような格好で寝ることになった。僕はドキドキして眠れるのかなぁと思った。


早朝、カーテンから眩しい朝日が洩れてくる。僕はシューヤを抱きしめている手を緩めて、起き上がった。シューヤは「んっ...」と言いながら身じろぎしてまた寝入った。改めてみても可愛い顔をしている。その辺の女なら負けるのではないのだろうか。シューヤの目にかかった髪を掻きあげる。見ているだけで愛しさがこみ上げる。
「顔は可愛い。性格も良い。感度も最高...か」
首筋に昨日つけたキスマークの跡が見えた。彼氏が見たら...どう思うかな? 僕はクスリと笑った。
「久しぶりに本気になってみるかな」
僕はそのキスマークを軽く舌で舐めると、もう一度ベッドに入っていった。


「いってきまーす」
僕はお父さんとクリスさんにひらひらと手を振ると、外へ出て行った。クリスさんは本当に昨日あんなことがあったとは信じられないくらい、優しくて笑顔も綺麗だった。何であんなにいい人なんだろう。 ...本当にあれは冗談なんだろう。外人さんって難しい。
「修也」
後ろからがばっと抱きつかれる。
「わっ!!」
僕が驚くと、
「今日も可愛い。好きだぜ」
僕の大好きな声が聞こえてきた。
「透君」
僕もこの大好きな腕を抱きしめ返した。
「いい加減にしなさい」
恵理ちゃんだ。僕はくすっと笑った。
「?」
いつもの怒った顔かと思ったら、恵理ちゃんは不思議そうな顔だった。
「修也君、香水なんかつけてた?」
「え?」
「ううん、なんでもない」
恵理ちゃんはそれだけ言って、いなくなってしまった。透君もなんだか不思議そうな顔になって、僕の所に近付くと
「あ、ほんとだ。なんか爽やかな香りが」
「え?」
「なんか大宮が気づいて、俺がわからなかったなんて癪だ。もっと、側に寄れよ」
透君がぎゅっと強く抱きしめた。
「えへへ」
抱きしめてくれた代わりに僕のほうからキスをした。


あっという間に放課後になって、僕ら(+恵理ちゃん)は一緒に帰っていた。
そこへ
「シューヤ、迎えに来た」
って声が聞こえて
「クリス!!」
って声とかぶった。
「恵理ちゃん?」
僕は慌てて、恵里ちゃんの方を見た。恵理ちゃんが何でクリスさんを? でも、
「エリィ?」
クリスさんがあの優しい笑みを恵理ちゃんに向けていた。
「あの香水の匂い、やっぱりクリスだったのね。まさかとは思ったんだけど」
恵理ちゃんが冷ややかな目で見つめている。
「久しぶりの再会にその顔はないんじゃないか?」
「ふんっ!修也君に何をしたのよ」
「何を怒ってるんだい?」
「......」
「シューヤは...ね 「だ、だめ」
僕はか細い声でそう答えた。
「そういうこと」
クリスさんは恵理ちゃんに言った。
「恵理ちゃん、クリスさんと知り合い?」
僕はすかさず、恵理ちゃんに聞いた。
「...私がイギリスにいたときのご近所さん。ちなみに私の初恋の人。イギリスへは父の転勤で行ったの。そこでクリスとあった。まぁ、かっこいいし。好きになるのは当然だったといえるかもしれない。でも、クリスってとってもモテるのよ。あの頃でもかなりの数の彼女とか彼氏(?)とかいたし。今では大嫌いよ。その彼がつけていた香水が、今、修也君からする匂いなの。まさか、こんな所で会うとはね」
「日本に行くって聞いたときから、エリィに会いに行こうと思ってたんだ」
「何でよ?」
「もちろん、イギリスにいたときに好きだった女の子だからね」
クリスさんがまぶしい笑みを振りまく。恵理ちゃんの顔が真っ赤になった。
クリスさん、すごい...!!
「冗談やめてよ」
「冗談じゃないよ」
クリスさんはそっと恵理ちゃんの手をとると、手の甲にキスをした。
「...!!」
にこっ  クリスさんが笑う。
「そういう所が大嫌いなのよ!!」
恵理ちゃんは勢いよく手を払った。
「むっ...」
後ろからにゅっと手が伸びてきた。
「とおるく...っ」
「あいつ、誰だ」
声が冷たい。怒っているんだとすぐにわかった。
「お前がキスされた外国人、あいつ?」
「え??」
「怖い顔すると、可愛い顔が大事だよ。確かに僕はシューヤにキスをしたよ」
クスリとクリスさんが笑う。
「ざけんなっっ...!!!」
透君がクリスさんに殴りかかる。
「やめてっ!!!」
「やめたほうがいいと思うよ。こう見えて、僕は結構強いんだ。空手を習ってたりするならまだしも、何もしてないならかなうはずないと思うけど。 それでもやる?」
クリスさんが透君の腕を捻り上げながら、言った。
「シューヤ、帰ろう。迎えに来たんだ」
クリスさんが僕に手を差し伸べる。僕は半泣きだった。
「....っき!!」
僕はクリスさんの手を振り払った。
「透君にこのことは言わないって、そう約束したのに...。クリスさんの嘘つき!!!!」
僕はその場から走り出そうとした。その僕の手を引っ張る手がある。僕はその手のほうへ倒れこんだ。
「ごめんよ、シューヤ。でも、僕、本当に君の事が気に入ったみたい。この彼氏から君を奪うよ」
ひっくひっくと嗚咽で揺れる僕の体を優しく抱きしめると、伝う涙を舌で追う。
「ねぇ、シューヤ。許して」
クリスさんの声と舌の感触がリアルで近かった。
「やめろっ...!!!」
透君が僕とクリスさんを引き剥がした。
「修也は俺の恋人だ。絶対、お前になんかやらない。俺の大切な人なんだから」
透君が僕を抱きしめる。
「透君...」
僕はこの安心できる腕の中に体重を預けた。透君の舌がクリスさんの後をなぞる。そして、僕に口付ける。
「んっ...」
僕は嬉しくて抱きつきながら、夢中でその感触を味わった。

「この二人は手強いわよ。私だって苦戦してるんだから」
恵理ちゃんが呆れた様な声で言った。
「エリィもシューヤ狙い?」
「もちろん。透君なんてこっちから願い下げよ」
にっこりと恵理ちゃんが笑う。 ...怖い。
「例え、エリィでも譲る気はないよ。エリィのことは好きになるかもしれないけどね」
「....調子、いいんだから」
はぁと恵理ちゃんがため息をついた。

「でも、シューヤもエリィも可愛いよ。僕は可愛いものが好きなんだ。今はシューヤに惹かれつつあるけど、まだわからないな。
 ...トオルでもいいんだよ?」
クリスさんが笑う。透君はあっかんべーをした。僕は透君の腕に抱かれていた。恵理ちゃんは相変わらずの呆れ顔で僕らを見ている。


僕の家に来たバイの外国人...クリスさん。なんだか、また一波乱ありそうです。